• 検索結果がありません。

これからの日本版 PFI に求められること

ドキュメント内 {PFǏ݁@|ʌ˒̎Ɨʂā| (ページ 34-47)

第一節 杉戸町のPFI事業に対する考察

(1)杉戸町のPFI事業に向けられる批判点とそれに対する考察

この事例は『検証・日本版PFI』1においてPFI事業としての妥当性が疑問視されるなど、

注目度は高かったとも言える。『検証・日本版PFI』で述べられていることの要旨は、「住民 参画によってまとめ上げられた基本計画は、社会教育や生涯学習の意義、公民館・図書館 の意義を深く分析した、市民の代表による力作であった。しかし役場内で検討された基本 方針・実施方針の内容は、建設委員会の議論がまったく踏みにじられるものであった。そ の内容は誰に断りもなく図書館部分が縮小され、PFI事業者の運営に係わる部分が広くなっ ているものである。なぜ住民参画の計画がいとも簡単にひっくり返ってしまうのだろう。

ここに民間資金主導で利用者・住民無視のPFIの本質を見てしまう。」2というものである。

以上の『検証・日本版PFI』で述べられている意見には賛同できる部分と、できない部分 がある。私が同上書において賛同する部分は、住民参画によって作成された基本計画が、

検討委員会をはじめとした住民等に予めの説明もなく変更されてしまったことを遺憾とす る点である。確かに住民参画によって練られた基本計画の変更を、住民に対して予め説明 しなければならないという法的な取り決めはない。しかし、杉戸町側が「杉戸町の図書館 を考える会」などの町民の団体から、施設竣工後にもその運営に意見具申をしてもらった り、ボランティア活動に参加してもらうなどの協力をして欲しいと考えているならば、そ の変更を説明することは常識的に必要だったのではないか。恐らく、11 回もの委員会に参 加した委員たちは皆、釈然としないまま竣工の時を迎えることになろう。

 賛同できない部分は、住民参画の計画が採用されなかったことは「利用者・住民無視」

であるとし、庁内で策定された基本方針の正当性を否定している点である。住民や委員会 への説明が不十分であったという事実はあるが、果たして住民参画の計画内容を庁内の委 員会における検討結果として採用しないことが「住民無視」ということになるのだろうか。

私は住民参画によって作成された「基本計画」だからといって、その内容を盲目的に行 政が認め、そのまま設計段階等に反映させていくというシステムは基本的にとるべきでは ないと考えている。杉戸町の「検討委員会」の委員20名のうち、8名が住民公募であった ことは前述した。確かに住民が真に求める施設を建設していく、ということは今日の日本 における公共事業を考える上で最重要なことではあるが、8名の意見をして杉戸町民の総意 とするのはいささか早計であろう。「住民が求めている施設を」という言葉を口にすること は容易だが、それを実現させていくことは決して簡単なことではないと考える。住民の中

1 建設政策研究所編(自治体研究社、02年)PP.146-151.

2 『検証・日本版PFI』を要約、一部引用

にも様々な利害や要求が存在し、その意思を統一していく作業には想像以上の労力が必要 とされるのだ。この杉戸町のケースで言えば、当初住民参画の基本計画で示されていた案 では、図書館を基本とした施設整備が希求されていた。しかし、杉戸町役場における全庁 的な検討の結果では、図書館部分の広さを生涯学習機能部分とほぼ同一にし、舞台等を充 実させるという案が採用された。確かに広大な図書館を求める住民にとっては許容し難い 変更であるかもしれないが、舞台や生涯学習機能部分の拡充を願う住民にとっては歓迎す べき変更であったはずである。

また、03年6月の杉戸町議会において内田弘之教育長は、住民参画の検討委員会と杉戸 町役場の関係について以下のような意見を述べている。

 「これは、個人の考えだけれども、(住民参画の)検討委員会に許可をもらって町が計画 を変更しなければならないところまでは考えていなかったです、はっきり言って。だから、

計画を変えた段階で、こういうふうに変えましたという説明がなかったのは私は遺憾だと 思いますけれども、許可を得ないと町の計画ができないというのでは、これは行政ができ ないと私は感じています。3

 これは内田教育長が議会において述べた率直な私見であると思われるが、私はこれが杉 戸町役場全体の声を代弁するものではないかと考えている。つまり、行政としては住民の 意見を聞き、それを汲み取るという側面も確かに持たねばならないが、自治体の財政状況・

社会情勢・法律的な問題等々を総合的に勘案するという基本姿勢を持って判断することが 大前提であるということが言える。上に述べたように図書館の拡充を望む住民、生涯学習 施設の拡充を望む住民、双方の存在に配慮しながら最終的に判断するのは行政の役割であ る。確かに杉戸町は「基本計画」策定にあたった住民に対して、あらかじめ変更の可能性 があることや、変更の場合にはその内容を最終決定前に伝えることが必要であった。しか し、その過程をクローズアップしてPFI自体を否定することは妥当でないのではないか。 

(2)費用算定方法に関する考察  

PFI事業を実施する場合には、まずはそもそもその事業を実施する必要があるのかという 必要性の検討から始まる。そこで必要であるとされてから初めて、どのような事業方式で 施設整備が行われるのかという検討段階に入る。PFIで事業を実施しようという場合には、

従来の方式による費用との比較が欠かせないものである。従来方式での費用算定数値のこ とをPSCと言ったが、杉戸町はPFIで事業を実施するとPSCの数値よりも26.2%のコス ト削減になると発表している。このコスト比較におけるPFI 事業者側で提示した数値とい うのは、既に生涯学習施設を整備する民間事業者が最終的に決定した後のものであるので、

その価格通りにこの事業が遂行されていくと考えることができる。

3 杉戸町議会第3回定例会(03年6月)の議事録より引用

問題となるのはもう一つの比較数値である PSC の方である。杉戸町ではこのPSC の算 定をどのように行ったかは、第三章の町職員へのヒアリングから構成した節でも触れたが、

生涯学習施設建設に関わる建設費を「すぎとピア」4と「アグリパークゆめすぎと」内の施 設という町内にある二施設を参考に算定したという。ちなみに「すぎとピア」はデイケア 等が行える福祉施設で、「アグリパークゆめすぎと」内の参考施設というのは食堂や食品加 工場などが入っている施設である。これら二つは基本的に杉戸町が整備しようとしている 生涯学習施設とは全く別の利用目的を備えた施設である。利用目的が異なれば施設の内容 も違ってくるのは当然のことだ。私が実際に訪れた「すぎとピア」は介助浴室や一般の利 用者も入浴できる浴室、日常動作訓練室などが整備されている施設で、図書館機能等を含 んだ生涯学習施設とは比較対象にはならないと感じた。

 さらにPSCの算定方法について言えば、試算では設計・建設段階において最もよくコス ト削減ができた、という話を杉戸町へのヒアリング調査で聞いた。また、PFIでの実施可能 性検討段階において杉戸町が民間へのヒアリングにより見込んだ原価縮減率は、初期支出 23.5%減、運営支出0.7%減となっていた。現在は民間事業者が決定しており、厳密にはこ の数字と異なる原価縮減率であるが、それでもいかにこの事業のコスト削減率の割合が建 設までの段階に依存しているかがわかるだろう。

これまでの文献調査等では、PFIで最もコスト削減が達成されるのは維持管理・運営の段 階であるということを認識していたので、この件には疑問を持った。設計や建設をPFI で 行ったとしても、従来のように発注図書で仕様等を指定した場合においても、設計段階に おける細部の違いこそあれ建設費には大きな違いはでないはずだからである。この点を聞 くと、そもそも杉戸町が考えていたものと民間事業者が提案してきたものでは、工法の選 択の時点から異なっていたというのである。確かに、工法の段階から異なっていれば建設 費の相違に大きな影響を与えるのかもしれない。では、杉戸町が考えていた工法と民間事 業者が提案してきた工法ではどのような違いがあったのだろうか。

杉戸町が直接の公共事業として実施しようとした場合では、基礎工事の段階で湿地上の 緩い地盤にも耐えうる施設を建てるため40mの深さまでボーリングを行う工法を採用しよ うとしていた。一方、落札者となった大成グループはそれ程までの深さでなくても対応で きるような新工法を採用した。これは一見すると、PFIの特徴である性能発注を取り入れた お陰で民間の創意工夫が発揮され、従来の仕様発注ではなされなかったコストダウンが可 能になった、と受け取ることもできる。しかし、性能発注により施設建設を行うという手 法は何も PFI だけではない。性能発注を民間事業者に対して行い、民間事業者は設計と建 設を一括して引き受けるデザイン・ビルドという事業方式もある。

また、このデザイン・ビルド方式に運営段階も加えたデザイン・ビルド・オペレート(DBO)

方式というのもある。ただし、デザイン・ビルド方式やDBO方式は公共側で資金調達を行

4 「すぎとピア」の外観と建物内の写真を、図表4-1として掲載

ドキュメント内 {PFǏ݁@|ʌ˒̎Ɨʂā| (ページ 34-47)

関連したドキュメント